むやみにコレステロール値を下げる必要はない

 

近年、「コレステロール値を下げ動脈硬化を防ぐ」「コレステロール値が気になる方に」という CM をよく見ますよね。

 

健康診断でお医者さんに「コレステロール値が高いですね」などと言われたことがある方も多いかと思います。

 

そして、コレステロール値を気にして、脂っこい食べ物を避けたり、コレステロール低下薬を飲んでいたりしませんか?

 

 ” 自分かも ”と、心当たりのある方、

 

ちょっと待ってください!それは大きな間違いです。

 

 コレステロール値が低い方が健康」というのは一種のプロパガンダのようなものです。

そもそもコレステロールには、善玉も悪玉もありません

 

メディアではなかなか取り上げられていませんが、世界各国の脂質栄養学の長たちは、『コレステロール値が低い人ほど死亡率や脳卒中、がんなどの病気の発症率が高い』という研究結果を報告しています。

 

今回は、誤解されているコレステロールの悪玉説の払拭を中心に、コレステロールと向き合うための正しい知識を提供していきたいと思います。

 

コレステロールは重要な栄養

 

コレステロールは、細胞膜の構成や脂溶性のホルモン・ビタミンなどの前駆体となる重要な脂質です。

 

また、神経細胞が多く存在するにおいてもコレステロールは重要で、その存在量は脳の重さの5分の1を占めるほど。

 

コレステロールは不溶性なため、血液中ではアポリポタンパク質と結合し、リポタンパク質として存在します。リポタンパク質は、低比重リポタンパク質(LDL)と高比重リポタンパク質(HDL)に分けられます。

 

LDL は肝臓で合成され、血液を介して全身にコレステロールを運びます。

 

その後、余分な コレステロール は血液中に残り、 HDL により回収され肝臓に戻ります。

 

肝臓に残ったコレステロールや、回収されたコレステロールは便の排泄を促す胆汁酸に作りかえられ、十二指腸に分泌されます。

 

コレステロールが不足してしまうと、細胞膜がもろくなったり、ホルモンやビタミンが不足したりして、代謝を正常に行えなくなってしまいます。

 

さらに、脳の中ではコレステロールを合成できず、血液を介して脳に運ばれてくるため、血中コレステロール値が低下すると脳機能の衰えにつながってしまうのです。

 

 

コレステロールの誤解と真実

 

  誤解①

「脂っこいものを食べるとコレステロール値が上がる」

 

  真実

食事に含まれるコレステロールにより、血中コレステロール値を変動させることはできません

 

 

体内のコレステロール値は、私たちのからだの働きによって厳密に調整されています。

 

体内での合成が十分な時には、食事に含まれるコレステロールを利用せず、少し合成が足りない時は食事からのコレステロールを利用します。

 

コレステロール値は毎日変動しており、体調の変化などでも変動し、加齢に伴い増加していきます。

 

食後も多少の変動はありますが、それは食事由来のコレステロールを代謝するまでの間で一時的に変動しているものであり、その変動もせいぜい 5 % ほどです。

 

コレステロール値が大きく変動するのは、飢餓や慢性炎症などで、コレステロールの原料が足りなくなる場合か、肝硬変などでコレステロールの合成が十分できなくなる場合、家族性高コレステロール血症(血中にコレステロールが溜まってしまう:詳しくは下記参照)による場合です。

 

 

  誤解②

 「コレステロール値が高いと動脈硬化症や心疾患をおこしやすい」

 

  真実

国内で行われている多くの疫学研究より、家族性高コレステロール血症の患者さんを除き、高コレステロール値を示した人より、低コレステロール値の人の方が、死亡率、脳卒中・がん・精神疾患などへの罹患率が高いという報告があります。

 

 また、ほとんどのがん患者ではコレステロール値が低下しているという報告や、魚を多く食べる人ほど心血管障害のリスクが低いという報告もあります。

 

コレステロールには悪玉・善玉という説がありますが、そもそもコレステロールに悪玉も善玉もありません。

 

LDL は悪玉といわれ、動脈硬化を招く原因といわれていますが、これには少し語弊があります。LDL が悪玉になるのは、活性酸素により攻撃を受け、酸化型 LDL になった場合です。LDL 値が高いからといって、酸化される機会が増える訳ではありません。

 

コレステロールの血管壁への沈着により、動脈硬化がおこるのは、全体の 1 % ほどだと言われています。

 

最近では動脈硬化や心血管障害は、慢性炎症の方が関与していると考えられてきています。

 

 

家族性コレステロール症は別問題

 

家族性高コレステロール血症は、本来血液中から細胞へ供給されるコレステロール ( LDL として供給される)が、細胞へ取り込まれず血液中にあふれてしまう病気です。

 

これは、細胞が LDL を取り込むための受容体の機能が障害される遺伝性疾患です。

 

一般的な高コレステロール血症とは異なるので注意が必要です。

 

家族性高コレステロール血症の場合、成長とともにコレステロールが血中にどんどんたまり、血中コレステロール値が 300 mg/dl を超えてくると、心筋梗塞における死亡のリスクが上ってきます。

 

この場合は、コレステロール低下薬を用いて血中コレステロール値を下げる必要があります。

 

 

コレステロール低下薬のこわすぎる副作用

 

家族性高コレステロール血症の患者さん、もしくはコレステロール値が家族性高コレステロール血症の患者さんと同じくらいまで上昇した場合、コレステロール低下薬は効果を示します。

 

一方、家族性高コレステロール血症の患者さんではない場合、コレステロール低下薬を服用することで健康に害が生じる恐れがあります。

 

健康診断では、総コレステロール値が 220 mg/dl 以上だと高コレステロールだと言われていますが、実際の疫学調査では、総コレステロール値が 240 ~260 mg/dl の人たちが最も死亡率が低いという結果が出ています。

 

上述したように、コレステロール値は年齢とともに増加する(下図参照)のが一般的です。

 

年齢 平均値 上限値 要検査値
10-19 175mg/dL 230mg/dL 300mg/dL以上
25-29 198mg/dL 270mg/dL 350mg/dL以上
40-59 250mg/dL 350mg/dL 400mg/dL以上
65-85 やや降下 330mg/dL 400mg/dL以上

*中日出版社、ワルター・ハルテンバッハ著「コレステロールの欺瞞」p70 より引用

 

コレステロール値が少し高めだからと、コレステロール低下薬を服用していると、生命活動に必要なコレステロールがどんどん失われ、生命を脅かす健康障害が招かれることもあるので、薬を処方された場合、本当に自分は薬を服用する必要があるのかを考えることが大切です。

 

コレステロールとは仲良くしよう

 

どうでしょう。コレステロール悪玉説は払拭できましたでしょうか。

 

繰り返しますが、「コレステロール値は、低いより高い方が病気になりにくいのです。

ただし、家族性高コレステロール血症(またはそれと同様の数値)を除いては。」

 

 健康診断でコレステロール値が高いと言われ気にしている方、基準がすべてではありません。

 自分は本当にコレステロール値を下げる必要があるのか、もう一度考えてみて下さい。

 

逆に自分はコレステロール値が低いなと思った方は、お魚やお肉を食べてコレステロールの原料となる脂質を摂取しましょう!

 

 

 

 

 

 

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参考図書

・ベスト新書「コレステロールは高いほうが病気にならない」浜崎智仁

・角川oneテーマ21「コレステロールに薬はいらない!」浜六郎

・講談社「コレステロール常識 ウソ・ホント」田中秀一

・永岡書店「100歳まで長生きできる コレステロール革命」大櫛陽一

・中日出版社「コレステロールの欺瞞」ワルター・ハルテンバッハ